空中ブランコ (文春文庫 お 38-2)


 久しぶりに小説を買いましたが、この小説、小説の名をを借りた漫画、それもギャグ漫画だと思います。

 『イン・ザ・プール』の続きで、同じ医者、看護婦が出てくるものなんですが、これがもう普通に面白い。

 面白い、というのがワクワクして一気に読めちゃう、とか話に引き込まれてしまう、とかそういう小説としての『面白い』じゃないんですよ。これはもう普通にギャグ漫画の『面白い』なんです。
 読んでて「ぎゃはははは!」って笑っちゃうの、ホントに、誇張でも何でもなくて。文字しかないのに。挿絵も無いのに。
 「ぷっ」とか「ニヤニヤ」じゃない、読んでて「ぎゃははは!」って笑ってしまう。それも1回や2回ではなく何回も。

 これはもうね、漫画ですよ、ギャグ漫画。絵は一切無くても漫画です。漫画の魂がこめられてます。こち亀の50〜60巻台を読んでて笑っちゃう笑いと一緒だもの。日常を読んでて我慢しててもどうしようもなくこみ上げてきちゃう笑いと一緒だもの。

 でもこの小説を端的にあらすじを書くと、こうなります。
『大病院の跡取り息子である精神科医の「伊良部一郎」が、様々な精神的病の患者に対してそれぞれ別の治療法を用いて病気を治す、という話』

 全然面白そうじゃない。でも、この「伊良部一郎」が曲者というかなんというか、およそ精神科医らしからぬ人物で、どんな人が治療に来ても注射を射して、その注射をしている様子を見て興奮するわ、医者なのに人の話を聞かないわ、病状を悪化させるようなことを言うわ、わがままだわで、もう医者と言う以前に人間としていかがなものか、という人物。
 それに露出狂の看護婦、マユミちゃん。この人も変人で露出狂の上に普通に病室でタバコとか吸ってるし、聞かれたことに答えないし、注射打つ以外はソファに寝転がって雑誌とか読んでるしでとんでもない。

 でも結果的にどの患者の病気も治してしまうんですよね。治されるほうはこいつらに振り回されて日常生活に支障をきたしちゃうけれど、付き合ってるうちに最終的に直っちゃう。
 そういう意味で言えば『笑ゥせぇるすまん』とは正反対のストーリー展開です。『笑ゥせぇるすまん』は、一時的に症状が治るけれど、最終的に大抵酷い目に遭います。
 でもこっちの伊良部先生の方は、一時的に症状が悪化するけれど、最終的に症状が治ります。明確に治ったという記述はないけれど、もう大丈夫、というところになる。素晴らしい。
 やっぱり最後は良くなって終わった方が読んでて気分がいいですからね。


 ギャグ漫画として見た場合には、伊良部先生はボクシングで言うと顔に当たったパンチのようなものです。当たり所が悪ければ一発KO、我慢しようとしても我慢できない面白さです。
 マユミちゃんはボディーブロー、1発1発はそれほどでもないけれど、ダメージが蓄積していって、気付いたら……、という感じ。
 しかもこのマユミちゃんが、酷い。ギャグキャラみたいなふりをしているくせに、不意にホロリと来ることを言うんですよ。しかも狙ってじゃなくて、本心から。そして、それが患者を救うんです。小説が書けない小説家をたった一言で治してしまう。
 前作の『イン・ザ・プール』でも、携帯メール依存症の子に優しい言葉をかけてあげて立ち直らせちゃうんですよ。普段はツンツン、たまに優しい、こいつはツンヤサですな。そんなジャンルないけれど。


 そんなわけで、この小説は元はハードカバーのれっきとした小説です。直木賞も受賞してるし。でも中身はギャグ漫画です。すごい読みやすい。そして面白い。
 私がもし普段漫画しか読まない人に、「何かいい小説ない?」と聞かれたら迷わずにこの『空中ブランコ』と『イン・ザ・プール』をお薦めしますね。中学生くらいまでだったらラノベの方を薦めるかもしれませんが、高校生以上だったら間違いなくこの2つをお薦めします。
 それくらい読みやすい。それくらい面白い。

 この作品は間違いなく活字嫌いの人を活字にはまらせる実力があると思います。ラノベよりも。
 らき☆すたのこなたは漫画は読むけれどラノベは読みません。まさにそういう人にこそ読んでもらいたい。それくらい活字の良さがわかる1冊、というか2冊です。


イン・ザ・プール